少人数からの参加が可能な,ねずみ網漁。 潮の力,魚の重さを感じながら, 漁師の力仕事を体験する。



  小野幸男さんが,ねずみ網を引き上げていく。「どっつり」

 と呼ばれる網の先端部が,海面に現れた。

  朝,というより,まだ夜の続きという気分の午前3時半。

 慌てて身支度を整えると,宿の玄関には『あけみ荘』の主人,

 小野幸男(ゆきお)さん(44歳)がすでに待っていた。

 用意された磯靴,防水ズボンやライフ・ベストに身を

 包むうちに,「これから海にでる」という実感が湧き,

 寝ぼけた頭もはきっりしてくる。薄闇の中の船出。

 波と風雨に浸食された切り立つ崖の脇を通って,

 小野さんの操る漁船は宮戸島の南端へ向かう。

 東側は石巻湾につばがる,仙台湾の始まるところが魚場だ。

  ここで行われるのは,定置網の中でも「ねずみ漁」と

 呼ばれるもの。15mほどの水深に袋網を張り

 1日1回,早朝に揚げる。

 この袋網自体は,細長い円錐形うをしていて,手の指にたとえると,

 関節に当たる個所が輪の枠と考えればわかりやすいだろうか。

 指先である先端に行くほど,網はすぼまる。そこに,捉えた魚が

 溜まっている。季節を通して取れる魚種は変わり,これから

 夏にかけては,クロダイ,スズキ,マゴチなどが揚がる。

 「ハイ,引き上げて」と,小野さんから声がかかって, 網をつかまえる。これがびくとも動かない。小野さんの手が加わってようやく網が手前によってくる。

「来てくれた方には,観光ではなく,漁業という職業の一部でも体験をしていってもらいたいのです」と小野さんはいう。力の入らなくなった両腕をさすりながら,その言葉に肯く。

ページ2へ